日暮れ、一本の街路樹に留まって異様に騒ぎ立てる鳥の群れがあって、その興奮ぶりに慄きながら下を通り過ぎる。
似たような樹ばかりなのに、なぜその樹を選んだのだろう。そのねぐらは明日には変わっているかもしれないけれど、今この瞬間はこの樹に集まることにどの鳥も同意した訳だ。
その樹は他の樹よりも、少しだけ違ったのだろうか。狭い道からは見上げるような高い樹で、背後のビルが照らす灯りでほとんど影でしか認識できない。
数年前にも同じような日暮れどきに街路樹に群れる鳥の様子を見たが、その樹は少し葉の量が多かった気がした。
大きな道路を挟んで遠目に見たから、鳥の黒いシルエットが休みなく木の葉の形を逸脱して飛び回るのがいやに気持ち悪くゾッとしたのを覚えている。コバエや蚊がたかるのを連想したのかもしれない。そして極め付けはやはりけたたましい鳴き声の不気味さだった。
それが外敵から身を守るための生存本能であれば、正しくそれで今日まで生き残ってこられたのだろう。
ひとつの樹の上を飛び回り鳴き喚く、音で体で間断なく自分たちの居る場所であることを示し続ける。
端から見れば狂っていて、だけど生き延びることの前には他の価値はほとんど意味をなさない。羽ばたき一つの切実さが、他と少し違うその樹をその瞬間だけ異様でかけがえのないものにしていく。
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